「おれ、何したらいいのか、分かんないんだけど」
たっぷり時間をかけて、導き出された答えはそれだった。
間近にある顔は本当に困惑しているようで、男は笑った。
「しょうがないですねぇ、坊ちゃんは。婚約者がいるでしょうに」
「だからあれは事故だったんだって! それに、男同士じゃん」
「あれ?聞きませんでしたー? この国ではそう珍しいことじゃありません。それに、男同士でもすることは一緒ですよ」
男はそっと腰に添えていた手を下へ伸ばす。
丸みを帯びた臀部に触れると、魔王は途端に顔つきが変わり、情欲の色が濃くなる。
体はびくびくと震えていて、快感に耐えているように男には見えた。
「撫でられるだけでそんなに感じちゃうなんて、よっぽどキツイ薬打たれたんすね」
「ふっ、う……」
さわさわと、服の上からその柔らかな感触を味わう。
時折掴むように包み込むと、その度に魔王の口から音が漏れた。
「おれ、なん、で薬なんて」
「さぁ。オレには分かりかねますがね、それよりも今は体を元に戻すことが先決でしょ。早く城に戻らないと、麗しの王佐が心配で禿げちゃうかもしれませんよ」
本当は、男は分かっている。なぜ魔王が薬を打たれたのか。誰によってこんな目にあっているのか。けれど、それを言う必要はない。
それに何より、この魔王を襲っている症状が、女がいつだったか漏らしていた秘蔵の薬の効果であるならば、時間が来れば自動的に効果は切れる。
それを伝えれば、魔王は今の快感に苛まれ続ける状態にだって、じっと耐えるだろう。
それすら告げないのは、男が今の状況を楽しんでいるからに他ならない。
男は、魔王を抱きたかった。
その黒い瞳を、その黒髪を、いくらか鍛えられてきたとはいえ、まだまだ細い未完成の体を、思う様慈しみたかった。
それが、男の口を噤ませ、魔王を快楽へと導こうとしている。
「どうすれば、元に、戻んの?」
切れ切れな息で、臀部を撫でられながら魔王は男に尋ねた。
「もう分かってるんでしょうに。エッチなことすればいいんです。それは、そういう薬なんで」
「……っ!」
分かりやすく男が答えれば、魔王は顔をこれ以上ない程真っ赤に染めた。
どこまでも初な人だと、男は心の中でこっそりと愛おしく思う。
「おれは、女の子が、好きなの、にぃっ!」
男の手が服の上からでは物足りなくなったか、ゆっくりと中に侵入して直接臀部を揉みしだくと、魔王の言葉尻が上がった。
魔王のさらさらした手触りは、男の手に心地よかった。
「今はオレしかいないんですから、我慢してくださいよ。なんなら、女装しますう?」
「その方が、まだ……いや、待て待てそうじゃない、そうじゃな……あっ!」
男の手が割れ目に沿って下り、ある場所に達した瞬間にビクンビクンと、魔王の体が一際大きく揺れた。
男の上に跨っているので、男にその振動はダイレクトに伝わってくる。
「どうしました?」
「そこ、触んのなしぃ……!」
「そんな可愛らしい声で言われましてもねぇ」
ほらと声を出して、男は更に最奥部をぐりぐりと刺激する。
魔王は声を殺そうと必至に耐えているが、艶めいた声が微かに男の耳へと届いた。
「あ、あ、や、めろヨザック……汚いって」
「坊ちゃん、もう覚悟決めましょーや。これしか方法はないですし、悪いようにはしませんから」
「け、ど……」
「絶対痛くはしません。それに……誰よりも優しくしますよ」
ね?と男は優しく笑いかける。魔王は体全体の緊張を解すことはなかったが、僅かに肩から力が抜けたようだった。
少しの間、魔王はその瞼を閉じて息を吐く。
頬は赤く、体は情欲に疼いているというのに、どことなく神聖さを感じさせる表情だった。
たっぷり間を開けて、恥ずかしいのか少し顔を背けて、魔王は口を開いた。
「………………頼む」
「お任せあれ」
男は心の中で、笑った。
了承は得たが初めての魔王にリードしてもらえる筈もなく、男は起きあがると魔王の腋に両手を差し入れ、そのまま魔王の軽い体を持ち上げる。
己の体を魔王の下から抜いて、魔王をベッドの上に直接座らせると、そのままゆっくりと押し倒した。
魔王は目が泳いでいて、決心をしたとは言え、不安と動揺に溢れているようだった。
男は寝かせた魔王の頬を、手の甲でそっと触れる。
「大丈夫、目を閉じて羊でも数えてれば、すぐ終わりますよ。オレとしては悲しいですけどね」
性交すると決めた以上、しっかりと感じて欲しいのは事実だ。
他に意識を持って行かれながらなど、一人でするのと変わらないではないか。
それでも、魔王の不安を少しでも拭ってやりたいという思いから、男の口からは本意ではない言葉が紡ぎ出される。
「苦しいでしょうけど、我慢してください」
魔王は男の言葉にこくりと頷く。
けれど、目を閉じる様子は見られなかった。
「坊ちゃん、そんなに見られるとさすがに照れます」
「あ、ごめん、どこ見たらいいのかわかんねーんだもん」
「目、閉じなくていいんすか?」
「いい。決めたんだから、ちゃんとやるよ」
そんな魔王の言葉に、面食らったような顔をしていたことを男自身は気付いていたのかいないのか。
一瞬の間の後、男はニヤリと笑って魔王の上にのしかかる。
「じゃあ、オレのことちゃあーんと感じてて下さいよ」
男は魔王の小さな唇に、啄むようなキスを与えた。
頬やその黒い髪を撫でながら、角度を変えて何度も軽いキスを繰り返す。
それだけでも体は疼くのだろう。魔王は最中に何度も体をもぞもぞをさせていた。
けれどそれを訴えるような事は勿論せず、魔王は男のされるが侭だ。
僅かな口の隙間から、舌を差し入れると魔王の体が今まで以上に強張る。
固く結ばれている歯列をなぞり、歯茎を何度も刺激するとくすぐったいのか少し口が開いた。
それを見逃さず、男は魔王の口内に舌を侵入させ、思う様蹂躙する。
魔王の口の中は、熱くてたまらなかった。
「はっ……!」
「苦しいですか?」
口の端を持ち上げて、男は魔王に尋ねた。同時に、魔王の両頬を、そのがっちりとしたごつい手で、優しく優しく包む。
「もっと、ゆっくり……」
魔王のいっぱいいっぱいの切羽詰まったような表情は、色気に満ちあふれていた。
「痛いんだ」
魔王の顔は男に固定されているから、動かすことは出来ない。魔王は仕方なく、視線だけを横にずらす。
それは、男の顔を正面からしっかりと見ることの出来ない恥ずかしさと、己の今の状態から目を背けたいという気持ちの表れだった。
魔王の言葉に、男は頸を曲げて視線を魔王の股間へと注ぐ。
「あーりゃりゃ」
その男の言葉に、魔王の股間が跳ねたように、男には見えた。
今にも湯気が立ちそうな程、張りつめたそこ。
触れればそれだけで、達してしまいそうな程だ。
「辛そうですね。……触っても、良いですか?」
答えを聞く前に、服越しに軽く触れる。
「あっ! わ、ヨザック!」
慌てて体を起こそうとする魔王を、片手で軽くいなして男は魔王の服に手を掛ける。
片手で器用に釦を外してそのままズルリと膝近くまで下ろしてしまうと、黒い下着が目に入ってきた。
貴族御用達の、黒い紐パンである。
「坊ちゃんもこれ、つけてるんですねえ」
「履かない訳にはいかないだろ……」
「オレは履いていませんけど」
「そういえば、ノーパンなんだっけ。まだ、ノーパンなのか?」
「ええ、勿論」
ほらね……と、魔王の手を己の股間に導く。衣服越しにも分かる、しっかりと立ち上がっている男の性器に怯みながらも、魔王は手を引こうとしない。
男が魔王の手ごと上下に動かせば、魔王の手は男の性器を握るように手を丸めた。
「意外と積極的ですね」
「はっ!? ちがっ、だって!」
「はいはい、すみません、いじめて。ま、オレのはいいですから、先に坊ちゃんのを……ね」
魔王の頭を撫でて落ち着かせると、男はそのままもう片方の手で魔王に触れた。
紐パンは、もう既に先走りの染みを作っている。
どんどん大きくなるその染みに、魔王は気付いて音がしそうな程固く目を瞑った。
その様子を見詰めながら、男は魔王の紐パンに手を掛け、左側の固く縛られた紐を、器用にしゅるりと解く。
別れた紐は、尻側の紐は重力に逆らうことなくベッドの上へ、もう片方はそのままだらりと、魔王の肌の上に残っていた。
それまで魔王の性器を押さえていた力が解放された為に、黒い布が魔王自身の力によって持ち上がる。
同時に、性器を覆っていた布が、横に落ちてしまった。
剥き出しになる性器に、魔王の顔はこれ以上ないほど真っ赤に染まる。
「坊ちゃんの、もうパンパンですね」
「恥ずかしいこと言うなって……」
口元を前腕で覆って、魔王は視線をあちこちに泳がせている。
男が優しく性器に手を伸ばせば、魔王はぐうっ……っと声をあげて、不安そうに男を見た。
「だーいじょうぶですよ、大丈夫。痛くは、ないでしょう?」
首を小さく縦に動かして、魔王は男の言葉に頷く。
「このまま、痛いことは何にもありませんから、力抜いて下さい」
優しい男の言葉に、魔王が一瞬安堵の表情を見せたが、それは本当に一瞬の事であった。
男の無骨な手が、魔王の性器を扱きだした途端、魔王の表情は思い切り歪んだ。
「くぅ……!」
辛そうに歪んだその表情は、けれど隠しきれない情欲の色をも含んでいて、とてつもなく男の雄を刺激した。
魔王はその表情の通り、辛いのだろう。
感覚が鋭くなりすぎて、触れるだけでもびくびくと感じていたというのに、こうして直接的な快楽を与えられたら……考えるまでもないことだ。
過ぎる快楽は苦痛でしかない。
それでも、解放されたいと魔王は願っているようだった。
「はぁ、あ、あ、ヨザ……ヨザックぅ」
懇願するような、甘く引き延ばされるように呼ばれる名前が、耳に心地よい。
男は今、確実に興奮している。表面では平静を装っていても、魔王に名を呼ばれるそれだけで、己の脳内が活性化していくのを感じていた。
体も、心も、魔王に集中して、魔王の一挙手一投足に感覚を全て持って行かれるようだった。
魔王の性器を、男は緩急をつけながら上下に扱きあげる。
一層魔王の身体が震えたかと思うと、ぎゅっと男の腕を掴んできた。
「出、る……っ!」
忙しない呼吸の間に、どうにか零れ出た言葉通り、魔王は扱きあげられて間もなく、男の掌の中で果てた。
とろりとした白い液体が、男の掌に吐き出される。
びゅくびゅくと溢れていた精液が止まっても、射精の快感が長引いているのか性器を始め魔王の身体は引きつるように震えていた。
「よく、出来ました」
涙目になっている魔王ににっこりと微笑んで、男は魔王の性器から手を引いた。
手にべったりと精液がついていたが、それを拭う布も、この粗末な小屋には見当たらなかった。
「ごめ……ヨザック。汚した」
「汚れちゃいませんよ。なんなら舐めましょうか?」
「……やめといてくれ。おれの為にも」
はぁはぁと荒い息の中も、射精した為か魔王からいくらか余裕が見て取れた。
「じゃあ、折角ですから」
「?」
そんな魔王の、ほんの少しの余裕も次の瞬間には吹き飛ばされる。
やって来たのは、抑えることの出来ない、痛さにも等しい快楽だ。
「うあ、あ!」
仰向けに身体を投げ出していた魔王の膝を割って、男の手が魔王の蕾に触れた。魔王の精液をたっぷりと含んでいるその手が、指が、ぬるぬると魔王の臀部を這い回る。
ぐりぐりと執拗に蕾を刺激され、魔王は再び辛そうに息を吐き続ける。
「だから、そこは、ダメだっ……!」
「でも、気持ち良くありません?」
「………………っ!」
言葉を紡ぐことすら出来ないほどの快感が、魔王の身体に走っていた。
男の指は、無骨なくせにいやに優しくいやらしく蠢いて、魔王を快楽の方へ快楽の方へと導いていく。
蕾の周りを、なぞるように、形を確かめるように動く指は、魔王の理性を奪っていくには十分過ぎる。
「う……あ、あぐ、ん……あ」
もう言葉を紡ぐ事は出来ず、切れ切れに声を漏らすばかりだ。
そんな声を、男はもっと引き出したくて更に刺激を与える。
再び頭をもたげた魔王の性器からは、先程出した精液の名残と混じった先走りが溢れ、薄暗い部屋の中に唯一灯る蝋燭の炎を映しこんでいた。
「どうですー、坊ちゃん」
魔王の蕾を押しては戻し、押しては戻しと指を挿入しないように気遣いながら、男は勝手に漏れてしまう笑みを隠すことなく魔王に囁きかけた。
「も……やめ」
目尻は赤く染まり、既に涙を零しそうになりながらも、魔王はほんの少し、抵抗を見せる。
性器を扱かれるのはまだ良しとしても、奥に触れられる事は是としないようであった。
もしくは、ただそのもどかしい快楽が、辛いだけなのかもしれない。
与えている側の男には、どちらであるのかは分かり得ない事だ。
「オレもね、少しばかり辛くなってきたんで、一緒に気持ちよくなりましょーや」
言うと同時に、解すように触れるだけであった蕾の中へ指の腹を使って、静かに進入する。
「ああ……! あ、はっ!」
爪を当てないように気をつけながら、男の指先が魔王の中へと埋まってしまう。
まだ第一関節を挿入したに過ぎないのに、魔王の反応はとてもそうとは思えぬ程大きかった。
「いれ、た?」
不安に揺れる瞳が、あまりに可愛らしくて。
「ほんの少しだけですよ」
男は素直に、魔王に答えていた。
焦らすことだって、しれっと嘘をつくことだって男には出来たのに、とてもそうさせてはくれない雰囲気を、魔王は知らず作り出していた。
「ふっ、はあ……あ」
「痛くはありません?」
僅かに魔王の首が縦に揺れるのを確認して、男はまたズルリと指を奥へと進める。
その度に、腕の中の身体が激しく震え、悲鳴にも似た喘ぎを漏らす。
男の中指が、ズンズンと魔王の体内に侵入していく様は、男の性器から先走りの液を滴らせる。
前は開けてあるし、いつものようにノーパンなので、衣服を汚す心配はない。
魔王の中は、熱かった。
「指が全部、入っちゃいましたよ」
「う、そ」
男の中指は、根本までしっかりと魔王の体内に収まっている。
「動かしますね」
ゆっくりと、中指を魔王の中で動かしてみる。
その動きに呼応するように、魔王の身体も震えるように動く。勿論、魔王自らの意思で動いているわけではない。身体が勝手に反応してしまうのだろう。
「うあ、あ、うう!」
「どうですー坊ちゃん。痛みはありません?」
「う、ん!」
「それは返事ですか?」
男は小さく苦笑して、ズボズボと少し出し入れのスピードを上げる。
魔王の様子を伺っていると、そのうち魔王は慣れてきたのか、苦しそうな吐息が減っていき、甘さの残る息遣いにまみれてきた。
「あ、あ、んう……」
「もう、指一本は余裕ですね。もう一本、いっときます?」
魔王は男の言葉に身を強張らせながらも、否定の言葉や仕草、肯定の言葉や仕草、そのどちらも表すことはなかった。
けれど、魔王の性格からしてお強請りなどは出来ようはずもないし、否定しないという事は、肯定と受け取って問題ないだろうと、男は判断した。
本当に嫌ならば、この魔王はどうにかしてでも逃げる。突っぱねる。拒否をする。
それを、男は知っていた。
「じゃ、もう一本、ね」
魔王の精液によってふやけた中指を抜き去って、人差し指を添える。
二本で、既に一本は余裕で受け入れる事が出来るようになった蕾に、ぐっと進入する。
「ああ!」
一本と二本の差か、魔王の声が今までより大きめに上がった。
「坊ちゃん、今すごーくエッチな顔してますよ」
男の言葉は、きちんと魔王に届いているらしく、魔王は律儀に顔に朱を走らせる。
男の言うエッチな顔も、途端に姿を潜めてしまったが、その方が男には有り難い。普段決して見ることのないあの表情は、正直かなりの破壊力を保有している。
もともと、本人は平々凡々な顔だと散々否定しているが(そして実際、魔王の住むもう一つの世界ではそうなのかもしれないが)、男を始めこの世界の住人からしてみれば、本当に整った顔なのだ。
いつもくるくる表情が変わる、その愛らしさのファンは多い。
男とて、その一人だ。
そんな魔王が、先程までしていた表情は、それだけで達してしまえそうな程扇情的だった。
今の恥じている表情も、結局は扇情的なのだけれども……。
「無意識ってのは、怖いですねえ」
そして、どこまでもたちが悪い。
「……さてと、そろそろ本番に行きますかね」
男は考え事をしている間も、手は休めていなかった。
魔王の蕾は余裕とはいかないまでも、もう二本をも呑み込めるようになっている。
これだけ慣らせば、男の性器とて受け入れる事は可能だろう。
「坊ちゃん」
名前を呼んで、仰向けで朦朧としている魔王の唇にキスを一つ落とす。
そうして、男は魔王の首の下に己の逞しい腕を差し入れ、魔王の上半身を抱き起こした。
そんな刺激だけで、やはり魔王は辛そうに息を吐く。
一度射精したものの、魔王の性器は萎えることなく元気なままだったから、後ろの刺激に相当参っているらしい。
そんな魔王を己の膝の上に乗せて、男はわざと耳元で囁いた。
「オレの、受け入れてくれます?」
だらんと垂れた魔王の腕は、ビクンビクンと大きく血流している男の性器に触れている。
確かめるように、魔王の手が性器を包んだ。
「こ、れ、無理だって……」
相変わらず息は荒く、切れ切れにしか言葉は発せ無いようだが、魔王の顔から血の気が引いているように、男には見えた。
「でも、もう指じゃ物足りないでしょー?」
「………………」
魔王は男のものを握ったまま、答えない。
「大丈夫、ちゃんと慣らしましたから、坊ちゃんが思うほどキツくはないと思いますよ。それにね」
男は一端言葉を切って、それから己の性器を握ったままの魔王の手を、上から握りこむ。
手にぎゅっと力を入れれば、魔王の指が性器にしっかりと絡み付く。それを確認して、男はわざと、己の性器を動かした。
もう耐えられないのだと、解放したいのだと、主張するように。
男は魔王の肩口に額を当てて、小さく低い声で、言葉を絞り出す。
「オレももう、限界です」
左手を、魔王の背中に回し、力一杯抱き寄せる。
「……陛下、貴方を直接、感じたい」
顔を上げ、魔王の唇を塞ぐ。舌を差し入れると、ぎこちなく魔王がそれに呼応する。
「ふ……」
魔王の息なのか、男の息なのか、判別出来ないほどに二人の舌が絡まる。
男はキスの間にも魔王の背中から臀部にかけてを優しくあやすように撫で、両手を臀部の下に割り入れた。
そのまま力を込めて、魔王ごと持ち上げてしまう。
唇を解放すると、魔王の唇がぎゅっと引き結ばれた。
「陛下……」
男は魔王の蕾に亀頭部分を宛い、ぎちぎちの蕾を押し広げるように、魔王の身体を沈めていく。
魔王の身体を支えていた腕から力を抜いて、挿入は重力に任せた。
「あっ、あっ、ぐう、うう……っ!!」
眉を寄せ、苦しそうな表情をする魔王の鎖骨に唇を滑らす。
ちゅうっと音を立てて吸い上げ、痣を散らした。
「はっ、はっ、はあ、あ」
「そうです、ゆっくり、息を吐いて……」
鎖骨に口づけをしながら、男は自然と引こうとしている魔王の腰を引き寄せた。
重力に従い、少しずつ魔王は男を呑み込んでいく。カリの部分が魔王に包まれれば、あとはもうじゅぶじゅぶと音を立てながらも、すんなりと根本まで挿入された。
魔王の臀部と、男の太腿が触れた瞬間、魔王の息が詰まる。
同時に、男の息も詰まっていた。
狭い魔王の内部は、ぎちぎちに男を拘束する。
今まで碌に相手をされていなかった分、急な刺激に目眩すら起こしてしまいそうだ。
「はい、ったあ……あ」
「ええ、全部、入っちゃいまし、た」
お互いに動くこともままならない。挿入しただけで、ぶるりと快感が体中を縦に走っていく。足に、攣りそうな痛みとも快感ともつかない感覚が押し寄せた。
今動けば、すぐにも達してしまいそうだと思いながら、男は魔王が今の感覚に慣れるのを待った。
「くる、し」
「すぐ慣れます」
実際、魔王のぶるぶると震えていた身体も、じきに震えが小さくなる。
すると、次には魔王は男を受け入れながらも、身体が勝手に異物を吐き出そうと、内部がうねうねと動き出した。
「へい、か……」
「う、ん、ヨザ」
名前を呼び合い、どちらからともなく、抱き合った。魔王の男からしてみれば細い腕が首に周り、男の逞しすぎる腕は魔王の腰を掻き抱いた。
正直、男にも余裕はなかった。薬を打たれている上に、大きなものを受け入れている魔王の方が余裕からは程遠かったにせよ、男に余裕がなかったのも事実だ。
決して、この手に抱くことなどないだろうと思っていた双黒が、今腕の中にある事実だけで、男からは余裕が取り払われていくかのようだった。
未熟ながらも、真っ直ぐで良い国王だと、男は魔王を評価していた。
他の連中のように、手放しで褒め称える気持ちはなかったが、男が魔王に好感を抱いていた事は真実だ。
身体を交わらせたいとまで願った事はなかったし、今日の事とて最初は軽い気持ちで魔王に触れていた。
それが、今やこの有様だ。
まさか挿入だけで、こんなにも追い詰められるとは、誰が想像できただろう。
「いいですよ、陛下」
蠢く魔王の体内から、押し出されないように己のものを深く穿つ。
排出されそうになれば、もう一度穿ち、決して抜けることのないように繰り返す。
そのうちに、その動きはそれぞれに間隔が早くなっていく。ぺちぺちと、肉のぶつかる音が響き始めた。
「陛下、ご自分の、好きなように動いて下さい」
そのうち男は、魔王を跨らせたままベッドに身体を横たえる。
自分からそれ以上腰を動かしたり、手を出すこともなく、完全に鮪状態だ。
そんな男の行動に困ったように暫く行動を停止していた魔王も、男の額に浮かぶ汗を眺めながら、ぎこちなく身体を上下させ始めた。
男を受け入れると決めたのは、紛れもなく自分だ。そう思いながら、魔王は襲い来る快感と戦っていく。
「ヨザック、はっ、あ、なあっ」
自然と、上下運動が激しくなっていく。魔王の身体が男の上に沈む度、双方の脳天を突き抜けるようにビリビリとした刺激が走る。
そういつまでも、このままではいられないと、お互いに感じていた。
「何です?」
男の手と、魔王の手は、がっちりと絡み合っていた。その腕を支えに、魔王は運動を繰り返す。時折左右にも腰が揺れていることに、魔王自身は気付いているのだろうか。
男は目を細めて、乱れ始めた魔王を余すことなく見詰めた。
股間への刺激は、とどまることを知らない。
こちらまで、喘ぎ声を上げてしまいそうだった。勝手に、眉間に皺が寄ってしまう。
「なあ……気持ちいい?」
上気した頬で、不安と恍惚にまみれた表情で、濡れて揺れる瞳で、魔王はそんな言葉を口にする。
男は目を丸くして、ゆっくりと瞬きをした。
もう既に、魔王の理性のネジはどこかへ飛んでしまっているのかもしれないと、男は思った。
男は魔王の動きに合わせて、腰を動かし始めた。
沈んでくる身体を、突き上げるように腰を持ち上げると、今まで以上に深く、交わる。
「ひっ、あ!」
「陛下……」
魔王の動きに合わせているのがもどかしくなってくると、男は勝手に突き上げ始める。
勢いがついて、ピストン運動のスピードも深さも強くなる。
たまらず、男の口からぐっと、呻くような声が漏れた。
魔王の蕾が、ぎゅっと力をこめて、男を刺激してくる。
「ヨザックう……あ、ああ」
「はっ、そんな甘い声聞かされたら、イっちゃいますよ、陛下」
「ん、く」
本当は、既に達していてもおかしくない状況だった。
速くなる動きは、二人の射精感を高めていく。これ以上我慢することが出来ない。リミットは、近い。
魔王の精液と、男の先走りで、動くたびに接合部からはぐちゅっと水音が響いてくる。
その音が、余計に二人を煽っていることは、火を見るよりも明らかだ。
「陛下、陛下……」
「あう、ふ、う、ヨザ」
無意味に、勝手に、口から相手の名前が溢れてきてしまう。
魔王の中でぐちゅぐちゅに泡立ったお互いの潤滑油が、いやらしいことこの上ない。
下半身の感覚は、既に快感が過ぎて麻痺し始めている。
「も、だめ!」
一層強く、一層早く、腰を打ち付ける。
「ああ、あ、あ!」
「陛下っ!」
一瞬、白くスパークした視界と思考。
びゅるっと、性器から溢れ出す真っ白な精液。
魔王の精液が、男の腹に散る。
接合したまま故、男の精液はドクドクと魔王の中に注ぎ込まれていた。
「ああ……」
初めての注がれる感覚に、魔王の身体が痙攣する。
もう既に、下肢の感覚は麻痺しているのかもしれないが、それでも今動けばどうしようもない痛みのような辛い快楽に、魔王諸共犯されるだろう。
それを知っていながら、男は最後にもう一度、魔王の身体を沈み込ませた。
零れないように、栓をするように、男の性器は、深く深く、魔王の中へと埋められた。
魔王の身体が大きく跳ねて、そのまま崩れ落ちるように、魔王は男の胸板へ倒れ込んだ。
意識を飛ばしてしまった魔王の身体から、男は自身を引き抜いた。
ゴポリと、男の精液がこぼれ落ちてくる。
処理をしなければいけないと男は辺りを見回すが、このボロ屋には本当に何もない。
これが血盟城であれば、何も困ることはないだろうにと男は思うが、もしそうであったなら男と魔王がこういう行為に及ぶこともなかっただろう。
男は思考を元に戻し、魔王の汚れを雪ぐ方法を考える。
一番魔王の体に良いのは、近くを流れている小さな川までその体を運ぶことであろう。
布と言えば自分たちの着ていた服しかない状態だが、洗わないでいるよりはずっといい。
男は魔王の服を集め、抱きかかえたまま軽く羽織らせる。
自分は下だけ履いて、上着は魔王の体にかけた。
粗末な小屋の、粗末な廊下を、魔王を抱えて歩き出す。
男は歩きながら魔王を見詰め、まんまと女の策略に乗ってしまった事を少し、後悔した。
こんな風に手を出して良いような相手ではなかったのに。
それでも、過ぎた時間は戻せない。
しかし、男は後悔しながらも、どうしようもない充足感に包まれている自分に気付き、皮肉げに笑った。
「どうやらオレは、貴方を愛してるみたいですよ、陛下……」
意識のない魔王へ、男は誰よりも優しく、そう告げた。
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