SS
サニーさんの夜は早い。
お肌のゴールデンタイムだからと、時計の針が午後十時を指し示す頃にはベッドに潜り込んでいる。
だから、サニーさんが泊まりに来ていてもボクが家に帰る頃には彼は眠っていて、会話をしたり食事をしたりは出来なかった。
眠っているサニーさんを起こさないように気を付けながら眠る準備をすすめるのが、ほぼ日課になりつつある。
入浴、洗顔、歯磨きをして、翌日の準備や今日の仕事に関する作業を静かに終わらせる。
明日の朝ご飯を、サニーさんに満足してもらえそうなメニューにするために冷蔵庫と相談する。
これが一番大変な作業だが、楽しい作業でもあった。
彼が漏らす旨っという一言を聞きたいがために、ついつい気合いを入れてしまう。
メニューが決まればあとは眠って、明日の本番に備えるだけ。
寝室に足を踏み入れれば、大きなベッドで美しい人が寝息をたてていた。
既に見慣れた光景になりつつあるのに、それでもこの人の美しさには見慣れない。
長い睫が静かに震え、しなやかな筋肉が布団の下に隠れているのが見て取れた。
一歩一歩を慎重に、静かに静かに歩く。多分無駄な努力だとは思うのだが、それでも一応気は遣ってしまう。
彼が『美』に対してどれだけ拘っているか、共に過ごす時間が長くなった分、実感させられる事も多くなったからだ。
常日頃から口にしているコラーゲンやビタミンなどの栄養素は勿論、運動や睡眠にも随分と気を遣っていた。
特に睡眠は重要な位置を占めているらしく、それならば妨げる様な事はしたく無かった。
なるべく音を立てないように、ベッドを揺らさないように体を滑り込ませた。
そうすると、体が落ち着く前に腕が伸びてくる。
「……かえり」
「ただいま帰りました」
抱き締めてくる腕は無意識らしく、翌日にこの事を尋ねても知らぬと言う。
「寝る」
「もう寝てるじゃないですか」
「ん」
「おやすみなさい、サニーさん」
返事の代わりなのかぎゅうっと抱き込まれ、顔を上げようにも密着しすぎて叶わない。
そのうち静かな寝息が聞こえてきて、彼が再び眠りの淵へと戻っていった事を悟る。
最初の頃は随分と緊張したものだったが、最近は慣れてきてしまったのか安心するようになった。
鼻孔を擽るサニーさんの匂いにも、包まれている彼の腕にも、頭上で繰り返される穏やかな呼吸にも、心は乱される事無く落ち着いていく。
心地よいリズムで刻まれる彼の心音を聞きながら目を閉じれば、眠りはすぐそこだ。
明日の朝、彼は美味しいと言ってくれるだろうか。
うとうととしながら、思いは明日の朝へと向けられる。
こうして明日に繋がるこの時間をサニーさんと過ごせることを幸せだと、思う。
おやすみなさい、サニーさん。
良い夢を。
そして明日には一緒に朝食をとりながら、他愛ない会話をしましょうね。
end
2011.06.29
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