お題「オナニー」
中学生である身としては、そうそう名古屋から東京へ行くことなど出来はしない。
だからこうして、ほぼ一人暮らし状態である健二さんの家へ転がり込むことに成功した時は、一分一秒たりとも無駄にはしたくないのだ。
OZで繋がっていても、それだけじゃ足りない事は沢山ある。
お茶を淹れるねと立ち上がり、背を向けてキッチンへと歩いて行こうとする健二さんの背中に、迷うことなく言葉をぶつける事が出来たのも、そういう気持ちからだろう。
「健二さん、オナニーして見せて」
どんがらがっしゃーん!と大きな音を立てて派手に転ぶ健二さんは可愛くて可愛くてどうしようもない。そんな気持ちを表情には出さないように気をつけてはいるが、きっと母が見れば楽しそうねぇなんて言うに違いない。
そもそも、お尻をこちらに向けて転ぶだなんて誘っているとしか思えない。
天然って恐ろしいと思いながらも、視線は健二の尻からは剥がさなかった。折角見せてくれているのだから見ないとね。
「な! な! な! 何言ってるの佳主馬くん!」
どうしよう!佳主馬くんがおかしくなっちゃったと言葉には出さずとも狼狽えているその姿からだだ漏れで、顔は心なしか青ざめている。
そんな表情もまた劣情を催すだけなのだけれど、この人に自覚は勿論ないだろう。
しかもお尻をこっちに向けたまま振り返るなんて事をするものだから、こみ上げてくるのは言いようのない衝動。
そしてその衝動に、若い自分は抗うことが出来ないしするつもりもない。
足に力を込め、一瞬で間合いを詰める。
健二さんのお尻を下から撫で上げながら、もう一度言った。
「オナニーして見せてよ、健二さん」
その言葉に、そして撫でられている尻の刺激にびくりと震えながらも、健二さんは嫌がる素振りはない。
ただただ戸惑っているだけのようだ。
それとも脳がパンクしてしまったのか。数学に偏っているとは言え頭の良い彼だが、色事にはとんと疎いことはこの短いなりの付き合いの中で学んでいる。
最初はキスですらひどく苦労したのだ。真っ赤になってのぼせる彼が、キスに慣れるまで何度も何度も優しく優しく唇を重ねてきた。
勿論自分だって経験がある訳じゃないから、練習も兼ねていたのだけれど。
最近になってようやくキスをそれなりに受け止めてくれるようになり、舌の侵入も許してくれるようになった。
けれどそれだけでは、物足りないのだ。
もっと、もっと欲しい。健二さんの唇の表面だけじゃなくて、口の中全部。歯の一本一本も、歯茎も、舌も。唾液で溢れてあそこがガチガチになってしまうぐらいに、全部貪りたい。
当然、口だけじゃない。全部、全部欲しい。
でもまだ経験不足なのは否めないから、焦らないようにと自分に言い聞かせていた。
焦っていいことなんてない。怖がられたり、嫌がられてしまっては元も子もない。
そう言い聞かせてはいたけれど、言い聞かせられるほど大人にも出来た人間にもなれてはいなかったらしい。
健二さんのお尻をジーンズ越しに撫で回しながら、耳元へ口を寄せる。
耳の穴へそっと舌を差し入れると、ビクンッと体が跳ねた。
「や! 佳主馬くんっ」
「ん……」
れろれろと舌をゆっくりと優しく動かす度に、健二さんの体は震え口からは甘い吐息が辛そうに漏れる。健二さんの匂いがすごくして、たまらなく興奮する。
「ねえ、健二さん、見たいんだけど」
「や、だ! 無理、無理だよ佳主馬くん」
「なんで? なんで無理なのか、ちゃんと理由を言ってくれないと納得出来ない」
「…………」
ぐっと押し黙ってしまった健二さんの頬へ軽くキスを落とした。
「言って」
ぷいとそっぽ向いて、健二さんはぽつりぽつり口を開き始める。
「そういうのは、好きな人同士でもその……普通は見せないと思うし」
「うん」
「は、恥ずかしいから! 無理です!」
真っ赤になってしどろもどろになっている健二さんは可愛いけれど、その意見には賛同しかねる。
「だから見たいんだ。恥ずかしい健二さんがいっぱい見たい。僕以外見たことのない健二さんを見たいし知りたい。どんな風にすれば健二さんが気持ち良くなるのかが知りたい。今はまだ、健二さん自身の方が自分のいいところ分かるでしょ? それを僕に教えて欲しい。いつかは、僕の方がずっとずっと気持ち良くしてあげるから、今だけ教えて」
真っ直ぐに見詰めると、健二さんが少し顔を上げてくれた。健二さんの顔はどうしようもない程真っ赤で、パクパクと口を金魚みたいに動かしている。
眉が下がって、本当に困っているのだと分かる。それでも引き下がれなかった。そしてそれは、向こうも同じらしい。
「……あの、佳主馬くんだっていきなりその……お、オナニー見せてなんて言われても、恥ずかしくて出来ないよね?」
「健二さんにならいいよ。健二さん一人じゃ恥ずかしいなら、一緒にしよう」
「え、ええええええええええええええええええ!?」
もういっぱいいっぱいになってしまったのか、健二さんはフラフラしながらも引かれる手を拒みはしなかった。
緊張のせいか指先は冷えているくせに、掌はじっとり汗をかいている。握った手から汗をかいている事がバレてしまうのではないかと思うと少し恥ずかしい。健二さんにはいつだって余裕があるように見せたいのだ。
ベッドまでやってくると、あろう事か健二さんが自らベッドに乗った。
そのまま正座をして、つられるように僕もベッドの上で正座をした。
手は繋いだままだ。
ぎゅっと力を込め直したり、指先で握ってみたりと手で弄びながらも行動を起こすキッカケがつかめない。
正座で見つめ合っていると、自然と互いの顔が近付いていく。
触れるだけのキス。何度も触れては離れてを繰り返し、舌先で唇をつつくと、健二さんの口がおずおずと開く。
そのまま舌先で口内をつつき回る。健二さんの舌に触れると、奥へと引っ込もうとするので、それを追いかけて口内で鬼ごっこを繰り返した。狭い口内でいつまでも逃げられるはずもなく、ぬるぬると互いの舌が絡み合う。
もっともっと欲しくて吸えるだけ吸い続ける。
愛おしさが溢れてたまらない。普段は自信なさげに控えめな彼は、こういう時もっと控えめで、それを追いかけるのが好きだ。
本当は求めて欲しいと思っているけれど、それは今じゃなくて、いつかでいい。
そう思っていた矢先、ガチガチに血が集まって固くなっている下半身に、何かが触れた。
それは意思を持って、短パン越しに性器へ触れてくる。
「……! け、健二さん?」
「佳主馬くんつらそう、だったから」
目元を赤く染めて、彼は言う。
そんな状態で、我慢出来るはずがない。息も絶え絶えな状態で、彼の股間へと手を伸ばした。
「健二さん、下脱いで」
「……佳主馬くんも」
「うん」
もう一度深く唇を重ね合わせながら膝立ちになり、互いのズボンとパンツを下ろしてしまう。
既にしっかり勃起しているので、下ろすときパンツに引っかかって一旦押し下げられ、パンツから解放されると反動でペチンと腹に当たった。
そんなどこか間抜けな状態も気にならない程、いつの間にか自分もいっぱいいっぱいになっていた。
「健二さん、すごい。気持ちいいんだ?」
しっかりと上を向いている彼の性器を見るのは初めてだ。嫌悪感は全くないし、むしろ欲しいと思ってしまうのは本能だろうか。
つるんとした亀頭がいっそ可愛らしく思える。
見られている事を意識したせいか、それはぴくりと震えていた。
「あんまり見ないで」
「見ないと分からないよ。まだ恥ずかしいの?」
「……うん」
「じゃあ、自分の触って。自分の気持ち良いように手でやって」
「……」
訴えてくる瞳には佳主馬くんもとはっきり示されていて、自分からやらなければ健二さんはきっとしないだろうと踏んだので、そっと手を下ろした。
よく考えなくても人前でオナニーするなんて初めてだ。ましてやその初めてが好きな人の前でだなんて、やっぱりちょっとおかしいかもしれない。好きな人とはオナニーを見せ合うんじゃなく、触って感じたいし、触り合って溶けてしまうほどにセックスをしたい。
それでも手は止めない。これだって一緒に気持ち良くなることで、広く考えればセックスになると思う。
自分の性器を握って扱き始めると、健二さんもオズオズと手を伸ばした。
目の前には下半身を露出した好きな人がいて、恥辱に震えながら己を慰めている。これに興奮せずに、何に興奮しろと言うのだろう。
上下に擦りながら、不安げにチラチラとこちらを窺う彼の様子は正直とてもクる。
それだけで達してしまいそうな程、蠱惑的で扇情的で、そしていけないものを見ている気分だ。
はじめはぎこちなかった手の動きが、荒くなっていく息と共にどんどんとスムーズになっていく。
カリ首あたりを包むように擦り続けているから、きっとあそこが健二さんの良いところなんだろう。いつか触れるようになった時には、僕がしてあげたい。僕が直接、健二さんにああいう表情をさせたい。
透明な液体が溢れてきて、手の動きに合わせていやらしい音が聞こえる。
自分のも、健二さんのも、ヌチャヌチャとした水音が響いている。
はぁはぁと荒い息は自分のなのか健二さんのものなのか判断出来ない。
頭がぼーっとしてきて、気がつくと彼の名前を呼んでいた。
「健二さん、健二さん」
「佳主馬くん……佳主馬くぅん」
擦るスピードが上がる度に、どんどん前のめりになっていく。
扱きながら名前を呼び合って、互いに顔を近付ける。汗ばんだその顔が切なそうでいやらしくて可愛らしい。
好きな気持ちが溢れて止まらないのに、出てくるのは気分を盛り上げる甘い言葉でも優しい言葉でもなく、愛しい相手の名前だけだ。
大事な物を確認するように、何度も何度も互いに呼び合う。今快感を与えているのは自分の手ではなく、貴方なのだと伝えたい。
「健二さん……好き……好きっ」
「僕も、好き……佳主馬くんが、好き、ぃ」
泣きそうな顔で、健二さんが目を閉じる。僕も同じ気持ちだったから、そのまま口を塞いだ。すぐに舌を絡め合い、くちゅくちゅと涎を垂らしながら名前を呼び合って、真っ白になるまで上り詰める。
亀頭同士が触れ合うほど近くに体を寄せ合うと、もう自分のを扱いているのか、彼のを扱いているのか分からなくなる。境界がぼやけていくこの感覚が、セックスというのかもしれない。
何もかもが快感を後押しして、もう止まらない。早くなる手の動きと、どうしようもない焦燥感。健二さんの声が、全てが、自分を煽っていっぱいになる。
「ん! も、イく! 健二さん! 健二さん!」
「僕も、イク……うぅっ!」
白く思考がスパークして、びゅるびゅると勢いよく精液が手に溢れる。健二さんも同じようで、手で溢れてくる精液を受け止めていた。
汗と精液の匂いが充満する中で、はぁはぁと荒い息を整える間もなく、もう一度深く口付けた。
「ねえ健二さん」
「うん」
「健二さんをもっと、教えてよ」
「……うん」
心地よい倦怠感に包まれながら、二人でベッドに倒れ込む。
お互いの間には、まだまだ課題が山積みなはずだ。
けれど、それを一つずつクリアしていって、いつか健二さんと本当に一つになりたいと、そう思った。
end
2009年12月29日
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