SS2
次の試合の打ち合わせをしようと待ち合わせた場所は公園で、待ち合わせの時間から遅れる事五分。
ブランコを漕ぎつつ待っていた主将の元へ、ようやくマネージャーがやってきた。
「ごめーん渋谷ー、遅くなった。いやー、痴漢に遭っちゃってさー」
あははと笑うマネージャーこと村田健は、ちょっと面白いことがあったよのノリでとんでもない事を口走る。
「はぁ!?」
ブランコから立ち上がり村田の側に寄りつつも、いきなりの話題に渋谷有利はついていくことが出来ない。
痴漢?痴漢ってあれだろ、電車とかで女の人に触るヤツだろ?
村田って女だったんだっけ?いやいや村田は男のはずだ。
水着姿も拝んでいるし、体が入れ替わった時(※1)だって、あれは男の体だった。
だから村田は男だ。だけどじゃあなんて痴漢?
などと脳内でぐるぐると思考が展開しては閉じていく。
そんな有利の脳内なぞ知る由もなく、村田はニコニコ笑っている。
「まぁ正確には痴漢じゃなくて痴女だけどね。お姉さんにお尻思いっきり撫で回された」
「それは結構オイシイ体験なんじゃねーの?」
お姉さんという単語に、有利の思考が戻ってくる。
有利としてはむさいオッサンではなく、お姉さんならそれはほんの少し羨ましいかもしれないとまで思っているが、当の村田はうーんそれはどうかなーとどこか乗り気ではない。
「だってさ、いくら美人のお姉さんでも一方的に触られるのはちょっとね。やっぱりこういう事は好きな人とお互いにしたいじゃない」
例えばさ……と村田の腕が無防備な有利の臀部に伸びてくる。
さわさわと撫で回される感触に、有利の背筋がぞわぞわと粟立った。
有利の口をついて出るのは色気の欠片もないぎゃーっと言う悲鳴。
その間にも、村田の手は離れることなく、全体を撫でては右の臀部を鷲掴みにしたりと、いやらしさの欠片もなさそうな笑顔で、有利の臀部を思う様蹂躙する。
「わー、渋谷のお尻ってかったいねー」
「ぎゃーぎゃー! 村田お前何でおれのケツ触ってるんだよ!」
「えー? 何って勿論手だよ。これが足に見えるなら、渋谷、キミ相当重症だね」
「そーじゃなくて!」
勿論村田はわざとやっている。
慌てる有利を見て楽しんでいるのだが、有利はあまりの事にパニックを起こしかけていて気付いてはいない。
「ともかく、一方的に撫で回されるのって結構嫌なもんだろ?」
「そりゃあ嫌だけど」
離れていった手が再び襲っては来ないよう、有利は自分の手を後ろへ回しガードする。
「エスカレーターの女子高生みたいだね」
そんな有利の姿を見て、村田は笑った。
「……誰のせいだよ」
有利の呟きを意に介することなく、村田は足を進めた。
公園を出て、ファーストフード店にでも移動するつもりだった。
公園の出口まで辿り着いた所で、村田はぴたりと足を止め、後ろから尻をガードしながら歩いてくる有利の方へ首だけ向ける。
「何なら渋谷も触る? お互いに触れば一方的じゃないから嫌じゃないかもよ?」
ほらほらと痴女にも襲われるほどの魅力を持っているらしい尻を向けるが、有利の顔はみるみるうちに歪んでいく。
「げぇっ! 勘弁してくれ。そういうのは向こうに居る時だけで十分だよ」
「何渋谷、向こうで誰彼構わずお尻撫で回してるの? セクハラは良くないなー」
「ちーがーうっての!」
どんな爛れた国だよ!と喚く有利に聞こえないぐらいの声で、村田は呟いた。
「渋谷になら、触られてもいいんだけどな」
僕の体も心も、望めばいつだってキミの物になる。
end
2005.12.05
※1:ドラマCD「今日からマのつく自由業!」初回限定版特典の冊子の内容が、ムラケンズ入れ替わりネタだった。(現在は箱マの巻末に収録されています)
「しわなれ」のゐ茂さんの尻ネタに便乗して書いたモノ。
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